玄   関

あとに残らないものが好きだ。

まずお酒がそうだ。
呑んでしまえば酒瓶は空(から)になる。
中身は空になるがそのうまさはいつまでも心に残る。

芸がそうだ。
見終わってしまえばもう何もない。
ただ面白かったという記憶だけがいつまでもあとにひく。

いずれも知らなければそれでもすむ世界である。
しかしその甘美な余韻がいいのである。
お酒も芸もそれを呑んだり見たりした人だけの宝物である。

ともに一期一会である。
その一瞬にしかないというのがいい。
芸は口先一つで体一つで人を楽しませる技である。

形は残らないが心にはしみるのである。
見終わったあとのむなしさが、
そして楽しい時間をすごしたというせつなさが。

だからまた芸を見にいきたくなるのである。