桃太郎寄席 玉川美穂子


荒木町桃太郎 平成18年6月17日
●自由席 2000円
満席 21人ぐらい
午後6時〜午後7時10分


新宿荒木町は地下鉄四谷三丁目駅から
四谷に向かって徒歩3分のところに開ける街である。
昔の花街で昔ながらの狭い路地に多くの飲食店が並んでいる。
一つ一つが魅力的なお店である。

大人の街である。
お酒がうまい。
日本酒、焼酎、ワイン、洋酒と
飲む酒に不自由がない。

いくつかの店では定期的に芸人を呼んで寄席を開催している。
「桃太郎」もそんなお店の一つである。
玉川美穂子の浪曲を聞いた。
お店の親方が浪曲好きなのである。

あるときお店に立ち寄ったら
たまたま他に客がいなかったことから
広沢虎造をCDでたっぶり「お時間まで」
聞かせて貰ったことがある。

土曜日の夜である。
二十人も入れば一杯になる店内に高座を設えて
邪魔になる卓と椅子を店外に出して
小上がりに6人、土間には十数人の席を作っている。

まず親方が若い客のために
浪曲の歴史を10分ほど話してくれた。
落語で桂快治が「元犬」を一席。
二つ目を8年やっていますといっていた。

8年やっているだけあって
まちがいなくベテランの二つ目である。
枕は盲導犬の噺から入った。
その前に携帯の電源を切ってくれとの前説もやる。

盲導犬を連れている人の前で噺をしたことがあるという。
盲人は噺を聞きながら
うんうんと頷いていた。
目が悪いだけに噺に集中しているのだろうと思ったという。

しかし、そのうちこっくりこっくりしはじめたのだという。
しっかり眠っていたのである。
ところがその間ずっと盲導犬はじっと快治を見ていたという。
盲導犬は仕事熱心だと感心していた。

そして玉川美穂子登場。
曲師は沢村豊子師匠である。
「左甚五郎旅日記掛川の宿」である。
女浪曲師、色がある。

華がある。
声もいい。
じっくり楽しませてもらった。
芸は艶がなくては面白くない。

同じ人間がやっているというのに
舞台には夢があふれているのである。
人ではなく芸がそこに見えるのである。
そこに商品の華があるということである。

商品というのは
人間が作ったものなのに
そこに人間の匂いが残っていないものをいう。
買った本に印刷インクで指紋が付着していることがある。

たったそれだけのことで
その本に漂っていた夢から現実に引き戻されるのである。
商品に付着している人間の匂いを感じて
日常生活に引きずり降ろされるからである。

スターというのは
人間でありながら
人間の匂いを感じさせないスターという商品を
演じることができる人のことである。

だからスターを夢といいかえてもいい。
映画の撮影所を夢工場ということがあるが
うまいことをいったものである。
夢というウソをつくことの楽しさを知っているのである。

玉川美穂子の
小さなお店での一節(ひとふし)に
庵主は華を見ていたのである。
曲師の沢村豊子師匠のうまさを味わいながら。